山ノ瀬亮胤 展
無限遠 - 見える音、聞こえるかたち-
Ryoin Yamanose Ⅶ À L'INFINI -Des sons visibles, des formes audibles-
STATEMENT
BASCHET・音響彫刻 –あらゆる音を、区別することなくい躯体を打ち震わせながら、高らかに発出する姿は、まるで人への無条件な賛美を表すかのようだ。
その筐体は簡素な技術で出来ていて、産み落とされたばかりの原初の姿のようである。
本展ではバシェが試みた”聴覚”へのアプローチにコンビネーションを図りながら、山ノ瀬の”視覚”からのアプローチをインスターションする。
ギャラリーに差し込む光が刻の移ろいを指し示し、その中で山ノ瀬のインスタレーションは、バシェと自らの作品を連結し、やがて共振する。
聴覚とともに重要な知覚としての”視覚”も焦点を当て、私たちが持つ「見ること」への 既成的な概念を突き崩す試みだ。
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バシェの“音響彫刻”(*注)と出逢った山ノ瀬は、その直ちに楽器とは思われないほどの大きさと造形、有機的な動作、多彩な音とその音圧に感銘を覚えた。
伝統的な楽器は幾世代もかけて音と形を洗練させてきた。しかしここにあるバシェの音響彫刻の発する音はどこから来たものなのか。多様な音はどこか懐かしく愛おしささえ覚える。山ノ瀬が着目したのは制作技術だった。バシェは簡素な技術で作られたからこそ、あらゆる音を拾い上げ圧倒的な力で音を開放する。
そうしたものづくりの音の関係からこの作品を読み解く時、山ノ瀬は共感し、自身の制作との共通性を確信した。高度化された技術は、やがて制作の自由を制約するとして、山ノ瀬もあえて汎用的な工具を用いている。頼るのは手に覚えた技術のみ。
そして注文のためにアトリエを訪れる顧客が具体的な「ものさし」になり、その時の触れ合いこそが、山ノ瀬にとってはコミュニケーションの原点だった。
造形の基点にいつも「人」がいる山ノ瀬の仕事は、まさに人への信頼を形にするということなのだ。バシェの音の行き着く先にある豊かさを造形工作から読み取るとき、山ノ瀬は自身の制作との共通性を見出して共感する。
本展では、日本万国博覧会記念公園が所有し、京都市芸術大学において保存するバシェの音響彫刻《桂フォーン》をお借りし会場に設置した。
貴重な芸術作品の筐体は大きく、搬出入も困難ながら、関係機関、諸氏のご協力を得て実現した。
(*注)BASCHET
「バシェの音楽彫刻」はベルナール・バシェ(1917-2015)、フランソワ・バシェ(1920-2014)の兄弟によって考案された音の鳴るオブジェである。1970年の大阪万博において、鉄鋼館のディレクターであった作曲家・武満徹から作品制作を依頼されたフランソワ・バシェは、来日して17基の音響彫刻を作った。万博閉幕後に解体され、保管されたバシェ17基は現在6基が修復・復元され、本展では2015年に京都市立芸術大学で修復・復元された《桂フォーン》をギャラリースガタに設置展示する。